ブータン東部 Eastern Bhutan
ティンプーやパロからも遠く、車でも24時間以内にたどりつくことができない地域も多い、まさにブータンの田舎と呼べる地域です。長らく外界とは完全に隔離されたエリアでもあったため、西部とは違った文化や風習が今も息づく地域です。
モンガル
Mongar / མོང་སྒར་
モンガルは険しい難所の峠、トゥムシン・ラを越えたタシガンへの中継地点、また北のルンツェへの玄関口としての意味合いの強い町。ブータン西部では谷の合間に町や村があることが多かったのが、このあたりからは丘の上や中腹の町や村が多くなってきます。
モンガルの中心の見どころは巨大マニ車とモンガル・ゾン(Mongar Dzong)。モンガル・ゾンは1953年に建てられた比較的新しいゾン。元々この地方のゾンはモンガルの東のションガル(Shongar)にありましたが火災で全焼したため、第3代国王ジグメ・ドルジ・ワンチュクによって新造されました。
ジャカル(ブムタン地方)から:193km・車で約6時間〜8時間
ジャカルを出発するとウラなどの村を通って、一路トゥムシン・ラ峠に向かいます。トゥムシン・ラは3,750mで東西横断道の中でも最も難所として知られ、冬季は積雪や濃霧でしばしば閉鎖されます。
峠の3キロ手前には2002年にツツジ園(Rhododendron Park)が開園し、ツツジ・シャクナゲの花を高地の澄んだ空気の中で楽しめるのでお勧めです。トゥムシン・ラ峠の頂上は意外と開けた場所で、仏塔(チョルテン)が立ち、晴れた日には遠くにガンカー・プンスムを望むこともできます。
峠を越えてセンゴル(Sengor)の村をすぎると、クリチュ(Kuri Chhu)の谷に入りそこから約80キロの間に3,200m以上下り始めます。これだけの高低差をわずか数時間で走破するというブータンでも指折りのダイナミックなルートです。
タシガン
Trashingang / བཀྲ་ཤིས་སྒང་།
1日で移動できる範囲としては、ティンプーからもっとも遠い町・タシガン。
「ツァンラカ語(シャチョップラカ語)」を話し、明らかに西部や中部とは違った文化を感じさせる場所です。北のチベットとタシ・ヤンツェ、東と南のインド国境方面、そして西の東西横断道と交通と交易の要衝でもあり、周囲の村からはブータン暦の毎月1日、10日、15日に特産品を持って多くの人がこのタシガンに集まります。
タシガンの町は森の覆われた谷を流れる川(ミティダン・チュ Mithidang Chhu)を挟むような形になっていて、中心は東側のマニ車が真ん中に鎮座する広場です。
タシガン・ゾン(Trashigang Dzong)は川を遡った町の北にあり、1659年にチベットの侵攻の防御拠点として築かれたもので、建造から20世紀初頭まで東部地域一帯の支配権が存在していた場所です。
タシガンは東部地域一帯への観光の拠点でもあり、タシ・ヤンツェの他、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州にほど近いサクテン(Sakteng)、メラ(Merak)などへの数日掛けてのトレッキング、その手前のガムリ・チュ沿いの村々を訪ねる日帰りエクスカーション、パドマサンババ(グル・リンポチェ)が瞑想し、その跡が残るゴム・コラ(Gom Kora)などがお勧めです。
サクテンやメラへは1日〜2日歩いて行く必要がありますが、ヤクやヤギの毛と皮を使って作られた民族衣装を着た遊牧民の住む興味深いエリア。
ゴム・コラは寺院の裏手にある岩がパドマサンババゆかりの聖地で、3月〜4月のツェチュの際には周辺の少数民族が集まる独特の雰囲気となります。また、ゴム・コラのツェチュでは夜通しで寺院や岩の周囲を周回するという習わしがあります。実はこれ、男女の出会いの場でもありこれがきっかけで結婚するカップルも多いとか。
モンガルから:92km・車で約3〜4時間
ティンプーから:551km・車で約12〜17時間
モンガルからコリ・ラ峠(2,400m)を越えると標高も1,000mを切ってくるので、荒涼とした景観の中にトウモロコシ畑やバナナなどが目立つようになり、明らかに西部や中部とは異なる雰囲気を感じることができます。ここまで来るとブータンといえどやはりここは南アジアであるということを認識します。
ティンプーやパロから車で1日で移動できる範囲の限界点にあたりますが、道路状況によって所要時間が大きく左右されるため1日で一気に移動するのはあまりお勧めはできません。パロ・ティンプーからの場合はブムタン地方、タシガンからの場合はトンサ、ワンデュ・ポダンで1泊挟むほうが体力的にも無理はありません。
パロから:飛行機で約40分〜1時間20分
天候にも左右される不定期な運行ではありますが、ドゥルクエア(Drukair)の国内定期便があります。スケジュールさえあれば大幅に移動時間を短縮できるのでオススメ。
タシ・ヤンツェ
Trashi Yangtse / བཀྲ་ཤིས་གྱང་ཙེ་
タシ・ヤンツェはゾンカク(県)としては新しく、1992年にタシガンから分離して成立した地方です。タシガンからの日帰りで訪れるのに最適な場所で、木工職人の町として知られています。
見どころは町の手前、クロン・チュ沿いにあるチョルテン・コラ(Chorten Kora)。1740年にガワン・ロデイによって叔父の慰霊と悪霊を沈めるため、ネパールのカトマンズにある巨大仏塔ボダナートを模して造られた仏塔(チョルテン)で、上部に目が付いているのがネパール式仏塔の特徴です。仏塔のデザインはガワン・ロデイ本人がカトマンズを訪れた際にボダナートの構造と装飾を大根に彫り込んで持ち帰って再現したものですが、本家よりもサイズが小さいのは「持ち帰ってくる間に大根が縮んだから」という笑い話のような伝説が残っています。
春に行われる祭りも有名で、15日間の間を空けて2回行われます。1回目はインドのアルナーチャル・プラデーシュ州から片道3日を掛けて巡礼に訪れる人々のため、2回目はブータン人のために開催されます。
タシ・ヤンツェから13キロほど北へ行く(徒歩2時間・四駆のみ車でもOK)とボンデリン野生動物保護区(Bomdeling Wildlife Sactuary)となり、ポブジカと同じくオグロヅルの飛来地として知られています。オグロヅルの他にもラングール(猿の一種)、レッサーパンダ、虎、スノーレパード(雪豹)なども生息しています。タシ・ヤンツェの町中にはビジターセンターがあり、1,445平方キロにも及ぶ保護区一帯の紹介と説明を受けることができます。
タシガンから:53km・車で約1時間40分〜2時間
川沿いに北上していくルートで、道もよく整備されています。途中のゴム・コラに行きか帰りのどちらかで寄るのが一般的です。
サムドゥプ・ジョンカ
Samdrup Jongkhar / བསམ་གྲུབ་ལྗོངས་མཁར་
サムドゥプ・ジョンカは西のプンツォリンとならんで、ブータンとインドを陸路で行き来できる数少ないゲートのある町。
町の中は特に見どころがあるわけではないので観光で訪れることはまずない町ですが、東部地方で旅を終える場合はパロ・ティンプー方面に同じルートを通って戻るよりも、サムドゥプ・ジョンカ経由でインド・アッサム州のグワハティ(Guwahati)まで行って飛行機を利用するほうが早いので、そういう意味では通過するメリット十分にある町です。
ただ、この地域はあまり治安の良いエリアではないので長居は避けたいところ。また、このあたりは亜熱帯地域となるためマラリアやデング熱の伝染地域で、虫除けスプレーは必須。国境を越えたインド・アッサム州は分離独立運動が盛んな地域でもあり、あくまで出入国のゲートとして利用するにとどめたほうが無難です。
タシガンから:180km・車で約6時間
インド・アッサム州グワハティから:約130km・車で約2時間30分〜3時間
タシガンからサムドゥプ・ジョンカで国境を越えてグワハティまで行く場合は約10時間程度は掛かるため、基本的にサムドゥプ・ジョンカで1泊挟んでの移動となります。サムドゥプ・ジョンカからブータンに入国する場合も午後入りの場合は基本的に翌日移動となります。
グワハティ・ロクプリヤ・ゴピナート・ボルドロイ国際空港(Guwahati Lokpriya Gopinath Bordoloi International Airport)はシリグリのバグドグラ空港よりも発着するフライト本数が多く、デリー、ムンバイ、コルカタなどから飛ぶ場合は便利です。ただ、ブータンにそのままサムドゥプ・ジョンカから入国しても東部地方以外へ行く場合はアクセスに難があるため、ブータン西部・中部方面も旅程に含む場合はグワハティを使うメリットはありません。
グワハティから高速道路(National Highway)31号線を利用して400kmほどの東西移動でプンツォリンへアクセスすることも可能ですが、現実的には途中インド国内で1泊挟むことになります。