ブータン中部 Central Bhutan
ティンプー、プナカ方面からやってくると、ずっと狭い谷が続いていた地形が少しずつ変化してくるのがすぐ分かるようになってくるとそこはもうブータン中部。
入り組んだ谷に浮かぶように見えるトンサを過ぎて2時間ほど走るとブムタン地方に入り、急に視界が開けて地形が平坦になってきます。ここまで来るとティンプーやパロとはまた別世界です。
近年はこの地方にも空港ができ西部との行き来は便利になりましたが、それでもこの地方に住む人々にとっては「都会」のティンプーやパロは遠い世界で、外界とは完全に切り離された雰囲気すら漂う地方です。
トンサ
Trongsa / ཀྲོང་གསར་
トンサは地図で見るとちょうどブータンの中心あたりに位置している町で、周囲を非常に入り組んだ谷に囲まれている場所にあります。
ティンプー〜中部・東部を繋ぐ東西横断道と南部のシェムガン・ゲレプ・サルパン方面への道路のジャンクションとしても機能しています。
標高は2,180mとさほど高くないため、急峻な地形に棚田や畑が一面にあり、その深い谷の底を川(マンデ・チュ)が流れているという独特の風景を作りだしています。
ワンデュ・ポダン方面から来るとトンサの手前で谷を挟んだ展望台があり、町とゾンを一望することができます。直線距離だと近くに感じますが、まだここからぐるっと回り込んだ道を通る必要があります。
ワンデュ・ポダンから:130km・車で約3時間30分〜4時間
ワンデュ・ポダンから東へ進むと、ブラック・マウンテンと呼ばれる山岳地帯に入ります。ポブジカへ分岐する道を過ぎてペレ・ラ峠を登りきると、ここからは中部地域です。
ブムタン地方
Bumthang / བུམ་ཐང་རྫོང་ཁག་
ブムタン地方はブータン中部の心臓部とも呼ばれるエリアで、チョコル(Chokhor)、ウラ(Ura)、タン(Tang)、チュメ(Chhume)の4つの谷で構成されています。
中心となるのはチョコルの谷にあるジャカル(Jakar)で、ゾンの見下ろす川(チャムカル・チュ)沿いに町があります。トンサ方面からブムタンに入ると最初に通るチュメの谷で、これまでとは少し風景が変わってきたことに気づくはず。というのもこの周辺は平地が多く、平坦な土地で景色が見渡せるようになっているから。このあたりはソバや麦の産地としても有名で、ソバ粉で作ったパンケーキや焼きそば(炒めパスタ?)風の料理も名物です。また、スイスの支援によって始められたチーズ作りや、今やブータン全土で飲める地ビール「レッドパンダ」もブムタン地方の名物のひとつです。
ジャカル・ゾン(Jakar Dzong)は、トンサ・ゾンと同じようにンガギ・ワンチュクによって作られた寺院をベースに、シャブドゥン・ガワン・ナムゲルが建設を指示したもの。建設途中に大きな白い鳥が現れ、その鳥が飛んだ方向(今の場所)に建設したという伝説が残っています。
ジャカルの町から北に進むと、ワンデュチョリン宮殿(Wangdichholing Palace)があり、ここは初代国王の父ジグメ・ナムゲルが1857年に建設したもので、現在は仏教学校として利用されています。
さらに北には、パロのキチュ・ラカンとならんでブータン最古の寺院ジャンパ・ラカン(Jampey Lhakhang)があります。659年にチベット(吐蕃)王ソンツェン・ガンポが仏教布教のために建立した108のうちのひとつで、周囲は何もない平原(牧草地)の広がる場所に建っていて、内部はと回廊とお堂が本堂を取り囲むような複雑な造りになっています。静かな風景の中でマニ車を回す人々の姿が印象的です。
ジャンパ・ラカンからさらに30分ほど北に歩くと、3つの大きな建物が寄り添うように建つ寺院クジェ・ラカン(Kurjey Lhakhang)に到着します。「クジェ」とは影のことで、パドマサンババ(グル・リンポチェ)がこの地で瞑想を行い、その影が岩に焼き付いたことが由来となっています。正面から見て右側が1652年に建立された最古の建物(グル・ラカン)で、中央は初代国王ウゲン・ワンチュクによって1900年に建立されたサンパ・ルンドゥップ・ラカン、左は第3代国王の王妃ケサン・ワンチュクによって建てられたもの。
パドマサンババの影の残る聖地ということと、この地域はトンサ・ペンロプ(地域行政長)の影響下にあったこともあってワンチュク王朝との繋がりも深く、国王やジェ・ケンポ(大僧正)の参列する法要がここで行われることも多くあります。また、毎年6月頃に行われるクジェ・ツェチュでは見事なトンドル(タンカとも呼ばれる巨大な仏画)が披露される他、トンサから訪れる僧によって繰り広げられるチャム(踊り)も一見の価値があります。
クジェ・ラカンからチャムカル・チュを挟んで向かい側あたりにあるタムシン・ゴンパ(Tamshing Goemba)は1501年にペマ・リンパが開いた寺院で、ニンマ派の寺院としてはブータン国内で最も重要な寺院とされています。2階の講堂にはバルコニーがあり、クジェ・ラカンのキレイに眺めることができます。ちなみにこの2階部分はペマ・リンパの身長と全く同じ高さに作られています(低い!)。
トンサから:68km・車で約2時間30分(ジャカルまで)
トンサを出て1時間ほど走ると、道の中央に仏塔(チョルテン)が立ち、色とりどりのルンタ(お経の書かれた祈りの旗)がはためくヨトン・ラ峠(3,425m)に到達します。ドチュ・ラ峠やペレ・ラ峠に比べると険しい峠という雰囲気はありませんが、冬場は霧が立ち込めることが多く独特の雰囲気があります。そこから下ると徐々に視界が開けていき、チュメの谷に入るとそこはもうブムタン地方です。
パロから:飛行機で約30〜40分
2011年12月にジャカルの町の北部にあるブムタン・バトパラタン空港(Bumthang Bathpalathang Airport)が運用を開始し、ドゥルクエア(Drukair)のパロ〜ブムタン・バトパラタン空港〜ヨンプラ(タシガン)空港の定期国内線運航もそれに合わせて開始されました。運行本数が少ないためスケジュールの決まった旅行では使いづらい部分もありますが、車で寄り道しなかったとしても1日がかりになるパロ/ティンプー〜ブムタン地方がわずか30〜40分で移動できるため、スケジュールさえあえばかなり有効な移動手段です。
シェムガン
Zhemgang / གཞམས་སྒང་ར
シェムガンは中南部の奥深い森の中にある町。
ここから南へ行くとインド国境の町ゲレプ、サルパンではあるものの、緊急時や特別な許可を得ている場合を除いて外国人の立ち入りが制限されています。民族・文化的にネパールやインドの影響が強いブータン南部にあって、ブータン文化の最南端ともいえるのがシェムガンです。
この地域は現代においても開発からは取り残された地域ではあるものの、その分手付かずの自然が残っているのが特徴です。トンサからシェムガンに至る道では、ゴールデン・ラングールという希少種の猿を見ることができます。
また、バードウォッチングの名所としても知られており、近年ダンカラ(Dankala)の村でエコツーリズムの精神にのっとった宿泊施設(キャンプ場)の設置計画が進んでいます。
トンサから:約50km・車で約4時間〜5時間
通常の場合外国人の入域はシェムガンまでに制限され、それ以南への旅行は認められていません。これはインドのアッサム州統一解放戦線(ULFA)のゲリラがこの地方の森林に潜伏している可能性があるための措置です。ゲレプの国境は現時点ではブータン人とインド人のみの通過に制限されていますが、緊急時にはそれ以外の外国人にも開放されることになっています。